眠る工場地帯を抜ける無機質な美しさ
自然の雄大な景色だけがツーリングの目的地ではありません。
コンクリートと鉄、そしてアスファルトに囲まれた大都会にも、早朝だけに見せる息を呑むような美しい表情があります。
私が時折、無性に走りたくなるのが、第三京浜道路から首都高速神奈川線を繋いで横浜のベイエリアを流すルートです。
木々の緑や土の匂いといった自然の癒やしとは対極にある、人工物が織りなす冷たくも美しい静けさを味わうための、わずか60分の旅です。
早朝の第三京浜は、物流を支えるトラックが淡々と走るだけで、乗用車はまばらです。
驚くほどスムーズに流れる3車線の道路を走り、保土ヶ谷パーキングエリアで軽く一息ついたら、遠くに見えるみなとみらいのビル群を横目に、首都高K1横羽線から大黒線へ。
この時間帯の京浜工業地帯は、夜通し稼働していたプラントの煙突から白い蒸気が立ち上り、朝日に照らされて輝いています。
まるでSF映画のセットに迷い込んだような独特の雰囲気を醸し出しており、オイルと排気ガス、そしてかすかな潮風が混ざった都会特有の匂いが、不思議と心を落ち着かせてくれます。
信号機、道路標識、整然と並ぶ街灯。
朝の鋭角な光の中で幾何学的な美しさを見せる瞬間は、車体を傾けて走り抜けるライダーだからこそ気付ける景色です。
ベイブリッジが赤く染まるドラマチックな瞬間
このショートトリップのハイライトは、やはり横浜ベイブリッジを渡る瞬間です。
大黒ふ頭方面から本牧へと抜ける際、橋のアプローチを駆け上がっていくと、視界が一気に空へと広がります。
そして、まさに橋の頂点に差し掛かる頃、東の空から太陽が顔を出し、巨大な橋の主塔や無数に張られたケーブルが一斉に赤く染まるのです。
その巨大な影が海面に長く伸びていく様は、圧巻の一言。
左手にはガントリークレーンがキリンの群れのように整然と立ち並び、右手にはみなとみらいのビル群が、朝の光を正面から受けて黄金色に輝いています。
橋の上は海風が強く、バイクが流されないように注意が必要ですが、視界が開けた瞬間の開放感は何物にも代えがたいものがあります。
空の深い青と、朝焼けの燃えるような赤、そして眼下の海の暗い鉛色。
この強烈なコントラストの中を愛車で切り裂くように走る高揚感は、何度味わっても色褪せることがありません。
都会の動脈とも言えるこの場所で、巨大な都市が目覚めようとする鼓動を、タイヤのグリップを通じて直接感じ取るような感覚。
自然の中を走るのとはまた違った、都会派ライダーだけの特権です。
赤レンガ倉庫で深呼吸してリセット完了
高揚した気分のままショートトリップを締めくくるのは、赤レンガ倉庫の周辺エリアです。
日中は多くの観光客やイベントでごった返すこの場所も、朝の7時台なら静寂に包まれています。
歴史ある煉瓦造りの建物が、低い朝日に照らされて陰影を深め、重厚感を増して佇んでいる様子は、とてもフォトジェニックです。
赤レンガパークの無料駐輪場にバイクを停め、そこからレンガ造りの建物を眺めると、まるで海外の港町にいるような気分に。
ヘルメットを脱いで海沿いの広場を少し歩きます。
自動販売機で温かい缶コーヒーを買い、ベンチに腰掛けて海を眺めれば、ここが人口370万人の大都市の真ん中であることを忘れてしまいそうです。
汽笛の音を聞きながら、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、頭の中のノイズがきれいに消去されていることに気づきます。
わずか60分ほどの走行ですが、無機質な風景と対峙し、風を切って走ることで得られるリフレッシュ効果は絶大です。
遠くへ行くだけが旅ではありません。
いつもの街の、誰も知らない時間を旅する。
そんな身近な非日常が、また始まる忙しい一週間を乗り切るための活力になります。
さあ、コーヒーを飲み干したら、日常へ戻りましょう。
