AM5:00出発がすべてを決める朝の儀式
国道134号線は、関東のライダーにとって憧れのシーサイドラインであると同時に、週末の日中ともなれば渋滞という名の魔物が棲む過酷な道へと変貌します。
江ノ電の踏切待ちで連なる車の列、サンデードライバーの不規則な動き、そして熱を持つ空冷エンジンの悲鳴。
左手のクラッチ操作だけで握力が奪われていくような状況は、私たちが求める「整う時間」とは対極にあります。
だからこそ、朝活ライダーには鉄の掟があります。
それが午前5時の出発です。
この時間帯を選ぶことは、単なる渋滞回避の手段ではなく、一日を支配するための儀式のようなものです。
まだ街灯がアスファルトを照らす中、ガレージでキーを回し、愛車を目覚めさせます。
2月のこの時間は、まだ夜の余韻が色濃く残る深い暗闇の中。
近隣への配慮として暖機は最低限に留め、滑るように走り出す瞬間、冷やりとした湿った空気がヘルメットの隙間から入り込み、眠気を心地よく覚ましてくれます。
早朝の134号線は、昼間とは全く別の表情です。 鎌倉高校前の有名な踏切も、この時間だけは観光客の姿もなく、ただ静かに遮断機が上がっているだけの風景としてそこにあります。
信号の接続も驚くほど良く、まるで自分だけのために青信号が用意されているかのような錯覚さえ覚えます。
一定のリズムで単気筒エンジンの鼓動を感じながら、海沿いの道を流す時間は、まさに走る瞑想。
一度この早朝の静寂と自由を知ってしまうと、もう昼間の喧騒の中を走ろうという気は起きなくなるでしょう。
それほどまでに、誰にも邪魔されない早朝のR134は、特別で贅沢な時間を提供してくれます。
七里ヶ浜で迎える「青い時間」の特等席
鎌倉から江ノ島方面へ向かい、稲村ヶ崎を越えて七里ヶ浜の直線に入ると、視界が一気に開けます。
ここでぜひ体験していただきたいのが、冬の冷たく澄み切った大気の中でこそ最も鮮烈に映る、日の出直前の「ブルーアワー」と呼ばれる奇跡的な時間帯です。
空も海も、深く透き通った青色に染まり、水平線の境界線が溶け合うように曖昧になる幻想的な瞬間。
ヘッドライトの黄色い光と、外界の青い光が混ざり合い、ヘルメットのシールド越しに見る世界はまるで映画のワンシーンのように美しく映ります。
七里ヶ浜の海岸駐車場を目指して走ると、ちょうど空の色が劇的に変わり始める頃合いです。
開門と同時に駐車場へバイクを停め、ここで一度サイドスタンドを立て、エンジンキーをオフにしてみてください。
突然訪れる静寂とともに、波の音だけがクリアに耳に届きます。
スマホを取り出して写真を撮るのも良いですが、まずはその目で、刻一刻と変化する空のグラデーションを焼き付けることを強くおすすめします。
徐々に東の空が白み始め、水平線がオレンジ色に縁取られ、青から茜色へと世界が焼けていく様は、何度見ても飽きることがありません。
江ノ島を背に、街が起きる前に帰る美学
日が完全に昇りきり、江ノ島が黄金色の朝日に照らされる頃になると、街全体がゆっくりと動き始めます。
サーフボードを抱えた人々が横断歩道を渡り、散歩をする地元の方々が増えてきます。
多くのツーリングライダーたちは、まさにこれから箱根や伊豆を目指して出発する時間帯でしょう。
しかし、私の朝活はここで折り返し地点を迎えます。
江ノ島大橋を渡って島内に入り、参道を歩くのも魅力的ですが、観光地としての賑わいが戻る前にUターンをして帰路へ。
帰り道、対向車線を走ってくる数多のバイクとすれ違うたびに、心の中で軽く挨拶を交わします。
彼らの旅はこれから始まりますが、私はすでに誰もいない最高の時間を味わい尽くし、満ち足りた気持ちで帰るのです。
この「人が動き出す前に楽しみ尽くす」という優越感こそが、早起きをした自分への最大のご褒美です。
渋滞知らずのまま自宅に戻り、エンジンが冷めるのを待つ間にサッとボディの塩分を拭き取ります。
ふと時計を見れば、まだ8時前。
短時間でも濃密な満足感を得て、一日を長く、そして穏やかに使える。
これこそが、R134朝活が生活を整える道具として機能する理由なのです。
