エンジンの余韻は、店の外で静かに消す
「バイク歓迎」の看板を掲げているカフェであっても、ライダーとしての品格は忘れたくないものです。
特に私たちのように朝の静寂を愛する者にとって、排気音は時としてノイズになり得ます。
私が心がけているのは、お店が見える手前の路地や、敷地に入る直前で一度完全に停車し、そこでエンジンを切るという作法です。
そこからはバイクを降り、最後のアプローチは静かに押して歩く。
この「押し歩き」の手間こそ、早朝の住宅街や静かな海辺のカフェにおいて、最もスマートで安全な入店挨拶だと考えています。
駐車位置にも美学が現れます。
他の客の視界を遮らない場所、車のドア開閉を邪魔しないスペースを選ぶのは基本ですが、さらに一歩進んで、自分のバイクがその風景の一部として美しく見える角度を意識します。
スタンドプレートを敷いて地面を保護する配慮や、複数台で訪れた際に整然と並べる整列美。
店主や他の常連客は、そういった細やかな気遣いを意外と見ているものです。
「あのライダーが来ると、店の前の雰囲気が良くなるね」と言われるような、風景に馴染む存在でありたいと常に思っています。
ヘルメットとグローブの置き場所に人格が出る
店内に入った瞬間、ライダーから客へと顔が変わりますが、ここで問題になるのが嵩張る装備品の扱いです。
やりがちなのが、テーブルの上にドンとヘルメットを置き、その横にグローブを投げ出すこと。
しかし、飲食店である以上、外を走ってきた土埃のついた道具を食事をするテーブルに置くのはマナー違反です。
私は必ず、ヘルメットは足元の邪魔にならない場所か、空いている椅子の上に置くようにしています。
もし椅子を使う場合は、ハンカチやバンダナを一枚敷く。
この一手間があるだけで、店側への敬意が伝わります。
グローブやジャケットも同様です。
冬場の重装備は場所を取りますが、できるだけコンパクトに畳み、自分のテリトリーからはみ出さないように収めます。
狭い店内で通路を塞いだり、隣の席に干渉したりしないこと。
カフェという空間は、コーヒーの味だけでなく、その場の空気感すべてを楽しむ場所です。
私たちライダーが持ち込むべきは、風の匂いだけで十分。
武骨なギアの存在感を消し、文庫本を開くような静けさでコーヒーを待つ姿こそ、大人の朝活ライダーにふさわしい振る舞いではないでしょうか。
「ごちそうさま」の後は風のように去る
美味しいコーヒーと静かな時間を堪能し、会計を済ませた後もマナーは続きます。
長居をして駐車場を占有し続けるのは野暮というもの。
特に人気店では、次のお客さんのためにサッと席と駐車スペースを譲るのが粋です。
身支度は店内でダラダラと行うのではなく、支払いを済ませて外に出てからテキパキと行います。
ヘルメットのあご紐を締め、グローブをはめ、準備が整ったら軽く会釈をして出発します。
去り際もまた、静かであることが重要です。
エンジンをかけたら必要以上に空ぶかしをせず、すぐに発進します。
爆音を響かせて去っていくのは、せっかくの良い時間を台無しにしてしまう行為です。
低回転で静かにクラッチを繋ぎ、店の姿がミラーの中で小さくなるまで、穏やかに走り去る。
「また来たい」と思える店を長く守るためには、私たち客側の「また迎えてもらえる」振る舞いの積み重ねが不可欠なのです。
